クラスの特徴—まず躊躇をとる

 【クラスの雰囲気】

各自が成長するにはクラス全体が前向きで、雰囲気が良くないといけません。
辛気臭く重い雰囲気や、厳しい雰囲気、理屈くさい、自分の失敗を笑って誤魔化したり、仲間の成長を妬んだりはもってのほかです。
演技にはすべての感情を開くことを要求されます。
しかし、それは誰にとっても怖いことです。
そして、成長するには常に次のステップにチャレンジしなければなりません。
時には失敗することもあるでしょう。成長には失敗はつきものです。
否定的で、厳しく、重い雰囲気のクラスでは安心して心を開いたり、チャレンジして失敗することができません。
各自が成長しやすいように「安心して心を開き、チャレンジできるクラス」を
提供していきたいと思います。

 

【失敗していい】

成長するにはチャレンジすることが大事です。当然、失敗もします。
一生それの繰り返しで成長していくものです。
失敗することが怖くてチャレンジしなかったり、当たり障りの無いようにやっていては、絶対に成長しません。
演技での壁にぶつかった時、ただ悩んだり、殻に閉じこもっただけでは壁を越えれません。
アプローチを見つけ、失敗してもいい覚悟でやってみることです。
たとえ、失敗であっても次に繋がるきっかけが見つかるからです。

どんなに能力があっても、「失敗・みっともないこと」を恐れ、チャレンジする勇気がないと成長しません。
ここでやりたいのは少し良い演技でなく、すっごく良い演技ですから、本気のチャレンジでの失敗ならどんどんしてください。
大きな失敗やバカみたいな失敗を多く繰り返してきた人ほど成長しています。
本気の人の失敗を受け入れるられるクラスにしていきたいと思います。


【躊躇をとる・リアリティーが無くてもやる】

これがこのワークショップの大きな特徴で、もっとも理解されにくい点です。
システムやメソッドといった世界的に評価されてる訓練法も、それ以前にそういった訓練が吸収されやすい心身を準備していないと、どんな訓練をやっても効果は上がりません。
それは、まず第一に頭と心と身体の躊躇を取ることです。
演技・リハーサル・役の準備・基本的なエクササイズ、すべてに言えます。

[以下は役の準備・リハーサル・エクササイズについてです。演技については若干変わります]

躊躇は失敗への恐怖心・警戒心から生まれ、心身ともに萎縮し自由を奪い、何も感じなくなります。
警戒心から、頭で理解してからじゃないと動けなくなってしまい、俳優にとって大事な 「衝動に従う」というのが奪われ、理屈っぽく、今の自分の理解の範囲を超えるということができません。
たしかに、頭で理解してから行動に移すというのも一つの方法ですが、エクササイズで、リアリティーがまだ無い段階でも躊躇なく、とにかくやってみる、行動に移してみることが大事です。
まず行動して身体で感じることによって、頭の理解だけでは及ばないであろう理解や可能性・解釈・リアリティー・感情が生まれ、しかも身体を通しているので強固です。

これが頭の理解から入ると「これはこういうものだ」と狭い範囲でワクを作り、知らぬ間にその範囲だけでやろうと強制してしまい、理解・解釈・衝動・感情を自由にすることが出来ず「何か物足りない、型にはまって自由じゃない、魅力を感じない」という演技になってしまいます。

俳優は新しい役をやる時、いつも悩みます。
どこからアプローチすればいいのかと?
それは、まず動いてみることです。

頭の理解はワクを作り、自由を奪う。身体の理解は頭の理解を超えた可能性を生む。躊躇を取ってまず行動してみる。

「結果を決め付けないでやる」 それは次の瞬間、何をしなければいけないのか分からないので怖いものですが、瞬間瞬間を感じれるようになると、生き生きとした反応が生まれ、エクササイズなのに人の目を引き付ける魅力的なものになります。
それは必ず演技に反映されます。

スタニスラフスキー自身も初期の頃、テーブル稽古で理解を深めることをやっていましたが、後期には「考える前にまず動いてみよう」と言っています。

最初はリアリティーが無くてもいいから 行動的アプローチを続け、方向性・きっかけを見つける。
この練習の最初の頃は、リアリティーが無く動いてることに気持ち悪さや、うそをついてるみたいな居心地の悪さを感じてしまいます。
それはみんなが感じます。それでもやり続け、何かを感じる方向・フィーリングの流れる方向を探していくのです。
通らなければならない道です。
気持ち悪くなるのは一気にすべてを分かろうとして心の負担になるからです。
すべてでなく、きっかけを見つけようとすれば、そんなに気持ち悪くはならないものです。

「リアリティーがない、嘘の演技はしたくない」と言う人がよくいます。
いっけん正しいように思いますが、リアリティーに対してうるさい人ほど、実は一番リアリティー・感情を感じにくい人なんです。
「嘘」に対して警戒心・恐怖心が強く、心が頑ななので訓練の効果が心に影響されにくいからです。
そういう人は、たとえ感情や衝動が起きても
「これでいいのかな」 「もっとリアリティーが無いと嘘のリアリティーみたいで嫌だ」
と一度頭を通してしまうので、その瞬間に感情や衝動は消えてしまいます。
間違っていても、躊躇なく表してしまう方がいいのです。
エクササイズ・役の準備はそのためにあるのですから。

まず表したあとに、確認するようにすることです。
間違っていようと何度もいろいろな感情・衝動を躊躇なく表す事を繰り返していくうちに、正しい方向が見えてきます。
何より衝動を消す癖は俳優にとって致命的です。
どうせ、頭を通すとその時点で失敗ですから、それなら表してしまって、はっきりとした失敗をしたほうが次に繋がります。

躊躇してしまう人は誠実な演技(リアリティーのある演技)をしようとする人です。
演技に対して誠実なのは大事なことです。
しかし、時として誠実さが「警戒心、気後れ、理解を超えたものへの恐怖、うそをつきたくない」に変化し、躊躇を生み、大胆なアプローチを拒みます。

行動を起こすことに躊躇する人は、感情に対しても躊躇します。
俳優は普段出したくない、弱さやずるさという感情も要求されます。
そういう人に見せたくない感情が来た時も躊躇して隠してしまいます。
心のすべてを表すのが俳優の仕事なのに。

私たちも誠実な演技をめざします。ただ、私たちは「誠実な演技」のために、エクササイズ・役の準備・リハーサルの段階では、リアリティーが無くても躊躇なく動いてみて、リアリティー・感情へのきっかけや入り口をみつけるアプローチを選びます。
リアリティーや感情は、ほんの少し見つけるだけでも大変です。
心や頭だけで心理ゲームのようにやっていても混乱の中に入っていくだけです。

頭より身体を使ったほうがシンプルで深く吸収されやすく近道です。
「きっかけ・入り口・方向性をつかむ為」とはっきりと認識すれば役へのアプローチは楽になります。
本番で嘘の演技をしなくてすむように、準備段階で嘘をついてでも、きっかけをみつける。
すべての答えを見つけるのでなく、きっかけをみつける。

では、どうやって躊躇を取るのか?
最初は成功を求めずとにかくやることです。
成功にこだわり過ぎるから躊躇や緊張が生まれます。
心で躊躇を取ろうとしても取れません。
最初は勢いや勇気だけでやってもかまわないので、行動してみることです。
おそらく、失敗するでしょう。
でも「思っていたほど怖くないなぁ」と、楽になってきます。
「恐怖心とは自分が作った幻想」(by マイケル・ジョーダン)です。
楽になると、「感じる」余裕が生まれます。そこからがスタートです。

 

【適当・いい加減・まじめにふざける】

どのジャンルでもそうですが、特に内的・心理的なものを扱う演技では、
真面目すぎるというのは大きな欠点になります。
もちろん、稽古を休んだりの不真面目を勧めているのではありません。
真面目さは、遊び心・感じる余裕を無くし、ワクを作り、不自由で、魅力がなくなり、想像力も働かなく、心もかたくなで、感情が起きにくい心と身体の状態です。

じゃあ、どうすればいいのか?

集中を続けながら「ちょっと適当」「ちょっといい加減」「まじめにふざける」って感じでやるのです。
それを「遊び心」といいます。
集中が切れていると、ただの「お遊び」になって練習にならないので注意してください。
たしかに、「ふざけ」度が過ぎれば良くない結果になりますが、
その度合いも体験して掴んでいくしかありません。
度が過ぎれば、教師の方から「もうちょっと抑えて」と言いますから、どんどん遊んでください。
特に、真面目すぎる人、はめを外さない人、抑えがちな演技にすぐなってしまう人は、勇気を持ってわざとでもいいので、やり過ぎてみて下さい。
もちろん本番でのやり過ぎ(オーバーな演技・アクション)は良くないことですが、成長過程として自分のワクを破るには非常に有効的です。

 

【自由、衝動に身を任す、何をやっても良い】

上記の「躊躇を取る」「ちょっと適当」とほとんど同じ意味ですが、
準備の段階では、「結果を求めすぎない」 「ワクを作らない」 「失敗をおそれない」、つまりは「違う方向だと思っても、想像や衝動が起きたら身を任す」ことが大事です。
悪ふざけでないのなら何をやってもいいです。
そうやって、自分の想像を超えた発見や成長を見つけてください。
それを通過してから、自由・衝動を殺さずに少しずつ軌道修正していくのが
生き生きとした感情・表現を生みます。

 

【最初は難しい作品をやらない】

ここでは、実際の演技練習で使う題材(作品)は、みんなが同じということはありません。
自分で決めてもらってもいいです。
(どの作品をしたらいいか分からない場合はこちらから提示します)
その人の長所を伸ばす題材だったり、苦手を克服する題材だったりします。
しかし、最初は 「難しくない作品」を選びます。
難しいというのは、強い感情が必要だったり、役の個性が強かったり、役の生活が想像しにくい作品のことです。
時代物や海外物もそうです。

シェイクスピアを練習課題として使っている養成所があると聞きます。
シェイクスピアは16世紀末の作家で、王族の話が多いです。
あなたは王族の気持ちや考えていることを理解できますか?
権力のために人を殺す気持ちを受け入れられますか?
庶民の役だったとしても、あの頃の生活の大変さを実感できますか?
もちろん、そういうのを理解していくことが役作りですが、
そんな難しい役より、まず身近な役の気持ちを作り、癖をつけずに演技ができるようにならないと成長はしません。
チェーホフもブレヒトも、弁護士役もやくざ役も同じことです。

俳優訓練の初期段階で難しい作品をやると手にあまり、つい小手先で誤魔化す演技に走ってしまい、演技の基礎的な部分の何が足りないのか自分自身で気付かなく、演技の成長になりません。
名作や好きな作品をやりたい気持ちはわかりますし、大事なことです。
その気持ちを大事に取っておいて「成長するための作品」を段階的にやるのが一番成長が早いのです。

 

【演技の練習ばかりしても演技は良くならない】

もちろん演技の練習もしますが、それ以上にエクササイズを重視しています。
このワークショップでいうエクササイズとは、ダンスや滑舌のような外的なものでなく、内的なものです。
エクササイズでの、想像力・集中力の使い方、リアリティー・感情の捉え方が演技の時と同じだからです。
全てのエクササイズが演技に直結するようにカリキュラムを組んであります。

演技が成長するためには、実際の演技の練習以外に準備するものがあります。
自分の中に役の心情を見つけ、育て上げておくことです。
心情がないまま演技の練習をやっても、ほとんど成果は上がりません。
心情をつくるために、エクササイズ(感情解放・与えられた状況を想像して体感し信じれるまで育てるなど)を充分やる必要があります。

よくある失敗は、頭でできた感情を演技に押し込もうとしていることです。
そうではなく、エクササイズで役の心情を心いっぱいに育てておけば演技のときに自然と表れてくるようになるのです。

 

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